こんにちは。医学生道場の代表医師の橋本です。
先日、医学生さんの親御さんからご相談を頂いたので、紹介したいと思います。
医学生の親御さん
「先生、うちの子が悩んでいて、医学部の留年の危機なんです」
橋本
「なるほど。前期試験の結果はあまりよくありませんでしたか?」
医学生の親御さん
「はい、そうなんです。助けてあげたいんですが、私医学生や医師の世界は良く分からなくて、、、」
橋本
「どう助言していいか分からないという事ですね、なるほど」
医学生の親御さん
「そうなんです。私が何を言っても、「経験してないのに知った口を聞くな!」とまで言われてしまいます。留年の危機を迎えてるはずなのに、、、。どうしたらいいんでしょうか」
橋本
「了解しました。そうしましたら、まずは本人が抱えている悩みを、親御さんが理解することから始めるといいかもしれませんね。ですが、直接教えてもらうことはできないと思いますので、私から昨今の医学生がどんなことに悩んでいることが多いか、お話したいと思います」
医学生の親御さん
「よろしくお願いします」
医学生を取り巻く環境はとても特殊な環境ですので、本人たちの気持ちも、普通の大学生とは大きく違います。
それは、医学部を目指してからの流れから理解すると、理解しやすいと思いますので、順を追って説明したいと思います。メンタルの流れを書いてみましたので、医学生の気持ちになって読んでみてくださいね。
受験勉強中の話です。
「医学部を目指すぞ。たくさん勉強するぞ。自分は挑戦者だ! けれど、すごい辛いぞ。なんて辛いんだ。周りの奴がデートしたりディズニーランドに行ったりしている。これがいわゆるリア充ってやつか。大学に入るまでは全部我慢するんだ。今日なんて朝から17時間は座って勉強しているぜ。やるしかない。今は遊んでる暇なんてない。終わったら絶対に思いっきり遊ぶんだ。それだけを目標に頑張るんだ。辛いのは今だけだ!今だけ!、、、今だけ、、、」
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医学部に合格後した後の話です。
「医学部に受かって、周囲の様子が大きく変わった。たくさん褒められるぞ。これが勝者の余韻ってやつか。家族や友達、親戚まで、たくさんの人が、自分の事のようにおめでとうって喜んでくれている。頑張ってよかった。本当に良かった。報われた。けれど、ちょっと休憩したいや。何年も我慢して勉強したんだ。少しぐらい、緊張感無くゆっくり出来る時間のご褒美があってもいいじゃないか。今まで勉強ばっかりだったんだから、アルバイトをしてみたり、したことがないスポーツや趣味に挑戦してみたり、勉強以外の何かに挑戦したり、可能性を見てみたいんだ。当然恋愛だってしたいさ!自分をもっと磨いてみたい!」
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医学部入学後の話です。
「実際に入学して、授業も一か月受けてみた。なんて勉強量なんだ。周りの人だってすごい。モチベーションもたっぷりで、自分なんかが医学部に入ってよかったのだろうかとさえ思ってしまう。いろんなライバル達を蹴落としてまで入学してしまった。落ちた仲間はもう一回挑戦して浪人するとか言ってるし、基礎医学がつまらなくてやる気が出ないなんて、口が裂けても言えやしない。出席が足りなくなるギリギリまで学校に行く気がしないなんてのも言えやしない。親(祖父母、親戚)にもこんなにお金を出してもらって、今更引き返すことなんてできない。何で医者になりたいと思ったんだろう。勉強にガムシャラで、あんまり考えてなかったのかもしれない」
実は、医学部に合格したての新入生にとっては、それまで勉強を中心に生きてきたので、初めて自分の価値観(自我)をしっかり見つめなおす時期に入っている可能性があります。
そんな中、医学部特有の背景もあり、さらにさらに頑張ることを求められます。
ゆっくりする時間が無い上に、考える時間もないので、混乱してしまいがちです。
まずは、医学部がどういう所なのかについて、説明したいと思います。想像しながら読んでみてください。
・朝の9時から夕方17時30頃までみっちりしきつめられた授業(欠席は基本的に出来ません)
・それらの授業は全て、専門用語でしきつめられた、理解不能だが食らいつかなければならない授業
・周囲との、高いコミュニケーション能力が求められる実習(欠席はほぼ不可能です)
・求められる高い出席率(出席点の有無が進級を左右する事もあります)
・人体について学ぶ医学という特殊性(病んでしまう人は病んでしまうし、実習中に失神してしまう人は失神してしまいます)
・文部科学省と厚生労働省と医師会と病院という、様々な角度からの影響を受ける(実はとても特殊な社会的背景があります)
・高い授業料(留年してしまうと迷惑をかけてしまうというメンタルが、さらにプレッシャーとなりメンタルを危機に追い込んでしまいます)
・部活動やサークル活動での上下関係(負けず嫌いばかりの医学生の部活は、生半可な体育会系ではありません。理不尽な事もかなりあります)
・周囲の天才や秀才たちとの蹴落としあい(性格がいい人ほど、ターゲットになったり、やられてしまいます)
・受験時代よりも求められる勉強量(医学部に入るまでを頑張ると決めていた人にとっては、かなり酷な話です)
・留年の危機というプレッシャー
かなり強いメンタルがなければ、医学部を生き残る事は出来なくなっているのです。
そこで、中途半端な励ましや、分かっているような(本人にとって?)助言をしてしまうと、「うるさい!こっちは限界まで頑張っているんだよ!」という気持ちになってしまうかもしれません。
※関連コラム「受験で培った技術は、進級試験に必要な技術と全く違う!」
当然ですが、悩んでいる側も悩みは様々です。
アプローチの仕方も、人によって当然違います。ですので、一概に「こうするといいですよ」という方法はありません。
ですが、留年の危機を迎えている以上、親御さんとしてもなんとかアプローチしたいと思います。
そこで、私の経験からして、共通して出来る助言が一つあります。それは「きちんと耳を傾ける」ということです。
これが、留年の危機を迎えた親御さんの出来る、具体的な方法になります。
「ふむふむ。ふむふむ。ふむふむ」
「なるほど。確かに」
「なんか助けてあげられることはあるかい?」
「今まで頑張ってきたもんねえ」
人は、怒られるのは当然嫌ですが、励まされるのも傷ついたりすることがあります。
そういう時には口を開きづらくなってしまいます。
何か助言をするのではなく、ただただ聞くというのも大切なことだと思います。
しかも、親御さんだったり家族だったりしますと、どうしても距離が近すぎてしまい、意外に耳を傾けることを見失ってしまっていることがあります。
留年の危機については、医学生本人も語りたがらないことが多い話題ですから、仕方のないこともあります。
もう一つアドバイスをしますと、お勧めは家族での「食事」です。
やっぱり日本人は食事の時に素が出るので、留年の危機であっても、悩みを打ち明けてくれやすい気がします。
それでもだめだ、という時は、遠慮なく第三者を使うのが良いと思います。
当事者同士だけの会話で解決しようとしても、白熱してしまって前に進まないということもありますし、本人が全く耳を貸さない時には、前に進むのは困難を極めます。
もし、留年の危機という問題を抱えているのであれば、試験までの勉強するための時間がどんどん無くなってしまう前に、一度ご相談いただければと思います。
※関連コラム「医学部留年は誰にとっても他人事ではありません」
相談するのが遅くて手遅れになることはあっても、早くて問題になることはありません。お困りの方は早いうちにご相談ください。
医学生道場 代表医師 橋本将吉